次回の夜・文章講座について。
2009-11-30


夜・文章講座―ストーリーテリングの動性を仕込むU/講師 葉山郁生(作家)
■第2回 1月18日(月)午後6時30分〜

○関係性の網の目、人と人・人と物の出し入れの技法
○教材=『それから』十一章以下(新潮文庫他)

    *    *    *

課題=二場面(または三場面)で主人公(私または彼、彼女)と他の人物の三角関係を進展してください。【注・当初の課題から変更されています】

第一回目の教材「蹴りたい背中」の一節を参考例とします。この一節で、前半の主人公「私」(ハツ、女子高生)と友人、絹代の会話が始まり、後半にもその形式が続きますが、前半と後半で、主人公「私」の二つの人間関係が重ねられています。

    *    *

 靴を履くと、彼は伏し目のまま立ち上がり、後ろから出口を目指してなだれ込んでくる生徒たちに押し出されるようにして体育館から出て行った。
「今のって、にな川だよね」
 背後から突然声をかけられて驚いて振り向くと、興味津々な顔をした絹代がいた。

「結局、あいつの家には行ったの?」
「うん」
「えっ、じゃあ告白でもされた?」
 さっきあんなにふて腐れた態度をとった私に、またすぐこうやって人なつこく話しかけてくる絹代を、好きだな、と感じる。
「全然。私さ、中学の頃に女のモデルに会ったことがあるんだけどさ、」
「あー、昔言ってたよね。なんかの店で会ったんでしょ?」
「そう。で、にな川はそのモデルのファンだったらしく、どこで会ったか教えてくれって」
「うん?! どこで会ったか、って、その昔会った場所に行っても、もちろん、もうその人はいないんでしょ?」
「うん」
「やだ、相当なオタクだね〜」
「……うん」
 言わない方がよかったかもしれない。絹代はにな川を馬鹿にしてふれ回るような子じゃないから、そこは心配ないんだけど、オリチャンのことは私とにな川の二人だけのことだったのに。


「絹代はどうなの」
「何が?」
「あのグループとずっとやってくつもりなの? あの子たち全員、もう変なあだ名つけられてるでしょ。見た目が個性的だと、あだ名もつけやすいみたいだね」
 どうして私から離れたの? なんていう、飾らない質問を素直に聞く勇気が出ない。嫌味なことを言う方が簡単だから、いつもそっちに逃げてしまう。
「あだ名のことは言わないで。みんな、気にしてるんだから」
「かばうね」
「仲間だもん」
 仲間という言葉はわさびみたいに鼻にツンときた。ツンを吹き飛ばすように、鼻を鳴らして笑った。
「私は中学でもうこりごり。仲間とかは」
「極端すぎるんだよ、ハツは。グループと深く関わらなくても、とりあえず一緒にいればいいじゃない」
「それすら、できないんだよね。中学での我慢が、たまりにたまって一気に爆発した結果かな」
「我慢、って言っちゃうんだ、私らの時間を」
 絹代がさびしげに呟いたので、慌ててつけ加えた。
「絹代は笑ったり話盛り上げたりして、しゃべってくれてたから、私は何も我慢なんかしてなかったよ。でも同じグループの他の子、よっちゃんとか安田さんとかはさ、いつも押し黙ってて、眠そうに人の話を聞くばっかりだったでしょ、あれはきつかった」
 話のネタのために毎日を生きているみたいだった。とにかくしーん≠ェ怖くて、ボートに浸水してくる冷たい沈黙の水を、つまらない日常の報告で埋めるのに死に物狂いだった。指のここ怪我した、昨日見たテレビおもしろかった、朝に金魚死んだ。一日あったことを全部話しても足りず、沈黙の水はまたじわじわと染みてくる。

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[事務局日誌]

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