第1回 夜・文章講座のご案内。
2014-10-29


夜・文章講座
書くために読むV―ドストエフスキーを生かす(V)
講師 葉山郁生(作家)

第1回 11月17日(月)午後6時30分〜

○少年・少女の不幸のテーマ
「ドストエフスキーを生かす」三期目の始めに、好短編の一篇をとりあげます。

教材=ドストエフスキー『作家の日記』中の「キリストのヨルカに召されし少年」「現代的欺瞞の一つ」他

  *  *  *  *

課題=「召されし少年」は『白痴』から『カラマーゾフの兄弟』に向かう短編です。この作品を読んで、同じような不幸にある少年・少女像を描いて下さい。

以下が、ドストエフスキー『作家の日記』の引用文です。これをもとに、1回目の課題作品を書いて下さい。

 1 「お手々」の子供

 子供というものは不思議な人種だ。夢に現われたり、目さきにちらついたりする。ヨルカの前からヨルカの当日にかけて、わたしはいつも同じ町のとある四つ角で、どうしても七つより上とは思われない一人の子供に出会った。恐ろしい凍(い)ての日にも、彼はほとんど夏支度であったが、それでも、頸だけにはなにかのぼろきれを巻きつけていた、――つまり、この子を送り出す時に、なにかの世話をしてやるものがやはりあると見える。彼は「お手々」を出して歩いている。これは一つの術語で、袖乞いをすることをいうのである。この術語は、こういう子供たちが自身で考え出したのだ。こんな子供たちはうようよするほどいて、人の歩いている鼻さきをちょこちょこし、なにか教えられた文句をわめきたてる。しかし、この子供はわめきたてることをせず、なんだか無邪気な不慣れらしいもののいい方をして、頼るような目つきでわたしの顔を見あげていた、――つまりこの商売を始めたばかりなのである。わたしの問いに対して、姉があるけれど、病気のために仕事ができないで、家にじっとしているということを告げた。あるいは、事実かもしれない。けれど、後に知り得たところによると、こうした餓鬼たちはうようよするほどいるのだそうである。彼らはどんな酷寒な日にでも、「お手々」を出して歩くべく追い出される。そして、からっきし収穫がないときには、容赦のない折檻が家で彼らを待ち受けているに相違ない。幾コペイカの端銭を集めると、少年は氷のように固くなった真っ赤な手を出して、怪しげなごろつきどもの一隊が酒に酔いしれているどこかの地下室へ帰って行く。それは「日曜日をあてこんで、土曜日に工場をずらかったまま、水曜日の晩でなければ決してふたたび仕事に戻らない」といった連中なのである。そこでは、こういう地下室では、飢えと折檻に衰えはてたこの連中の女房たちが、いっしょになって酔いくらっているかと思えば、すぐそのそばでは乳呑児が飢えに泣いている。ウォートカ、汚臭、淫蕩、――が、なにより悪いのはウォートカである。子供はたったいま集めて来た金を握って、酒屋へ使いにやられる。そして、また新たに酒を提げて帰って来るのだ。時には座興に乗じて、その口の中へ強烈な酒を注ぎこみ、子供がほとんど正気を失ってしまって、引きちぎったような息づかいをしながら倒れるのを見て、高声をあげて笑うこともある。

  「……わが口へウォートカの悪酒(あくしゅ)
  情け容赦もなくそそぐ!……」


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